2022年3月松明堂音楽ホール公演

2022年10月13日 木曜コンサート  

もう泣かないで 悲しみの泉よ   weep you no more, sad fountains

10月13日は、秋の夜、しじまの中に浸る歌とリュートによるコンサートです。      

甘美なメランコリーをテーマに贈る17世紀イギリスとイタリアの美しい楽曲の数々。

大森彩加さんの湧き水のように溢れる清らかな歌声と、

詩人のように語るつのだたかしさんのリュートの響きの中に現れる深い情感に、想いを重ねてくださいますよう。

公演に寄せて、大森さんとつのださんにインタビューをさせていただきました。

つのださんにお尋ねします。つのださんは波多野睦美さんをはじめ素敵な歌手の方たちとの共演を重ねていらっしゃいますが、今回のパートナー大森彩加さんとの出逢いはどのようなものだったのでしょうか。また、その時の印象をお伺いしたいです。

 

つのださん:ある夏の古楽セミナーでのこと。
誰が歌っているのか、回廊に響く、稀に見る美しい声が聞こえてきました。 大森彩加さんでした。

 

photo: Shoji Onuma

大森さんは東京藝術大学卒業後、イギリスに留学なさり、帰国後古楽を中心に演奏活動をしておられますね。歌との出会い、古楽を選ばれたきっかけを教えてください。
また、今回つのださんとの共演に至った経緯を教えてください。

大森さん:歌や声に関して一番古い記憶は幼稚園に通っていた頃、友人の叔母様に「声」を褒めていただいたことです。その方は歌の先生をされていて、私に歌を始めるきっかけを与えてくれた最初の人でした。ヴァイオリンを3歳から15年ほど続けていたのですが、いつしかずっと歌っていきたいと思うようになり、迷うことなく声楽で藝大受験を目指すことになりました。
古楽との出会いは藝大学部2年生の夏、山梨の都留音楽祭に参加したことがきっかけです。その頃自分の声とレパートリーについてとても悩んでいた時期で、母の勧めで参加しました。
当時の私はモンテヴェルディやダウランドについても、楽器のことや様式、ピッチのことについても何も分からず、講習会のレッスンではただ歌うだけで精一杯でした。しかし、そこでつのださんをはじめ古楽のエキスパートの先生たちとの出会いによって私の世界が一気に広がりました。古楽に対する難しい、堅苦しいというイメージが少しずつほぐれて、それまで悩んでいた私の声についてもこれだ!と思えるようになり、そこからは古楽の魅力にどんどん引き込まれていきました。
つのださんとの共演は初めて都留音楽祭で出会った頃からの夢で目標でした。
そこから藝大卒業、イギリスへの留学を経て今年の3月に新所沢の松明堂音楽ホールでコンサートの機会を頂き、今回の木曜コンサートのゲストに呼んでいただきました。

大森さんにとってのつのださんの〈リュート〉、つのださんにとっての大森さんの〈歌〉はどのような存在ですか?

大森さん:声が私にとっての楽器であるようにつのださんのリュートもつのださんご自身で、いつも自分の楽器と向き合う意識をさせてくれる存在です。つのださんとお話をしている中である時、「楽器の限界がわかっているからこそ0(ゼロ)に 向かって緻密な研究、作業をする。良い部分が欠点になるときもあり、でもそれがそのものの美しさだったりする。」というつのださんの言葉が印象的でいつも心に刻まれています。詩への理解が深いつのださんの演奏は時におしゃれな言い回しのような表現をされて、緊張感を持ちながらもその世界観の中でアンサンブルさせていただくことに喜びを感じています。

 photo: RIna Igarashi

つのださん:リハーサルをして、一緒に音楽を考える中で、 もう一度音楽を見つめ直す良い機会をもらえています。

今回は第一部が17世紀イギリス、第二部が16-17世紀イタリアから生まれた作品のプログラムとなっています。構成の企み、聴きどころなどをお聞かせください。

大森さん:プログラムを決めた日、並んだ曲を見て「暗いねえ。いいねえ。」と(笑)。
また今回のテーマのひとつは「劇」です。
第一部では語りかけるモーリーから始まりシェイクスピアでは様々なキャラクターが登場し、ダウランドへと続きます。おしゃべり、独り言、訴え。
そのテーマは第二部にも続きます。
どの時代に生きていてもどこの国にいても人間の本質は同じ、感情を表に出したり内側に潜めたり、表現は違っても全ては愛に繋がります。
愛への喜び、悲しみ、嘆きを時に静かに、時に感情的に、そのコントラストをお楽しみいただけたら嬉しいです。

少し音楽から離れますが、大森さんは演奏活動以外にはどのようなことをしてお過ごしになっていますか?ご趣味などあったら教えてください。

大森さん:普段は家で映画を見たりのんびり過ごすことが多いのですが時々父から譲ってもらったカメラを持って写真を撮りに出かけます。美術館や自然の多い場所、知らない場所に出かけたり旅をすることが好きです。

この時世に、いにしえの甘美なメランコリーの世界に触れて、聴く方が美しい欠片を発見する機会はとても大切なことのように思います。
本公演〈もう泣かないで 悲しみの泉よ weep you no more, sad fountains〉にお越しになる皆様にメッセージをお願いします。

大森さん:どんな時代にもどんな人にも、良い時もあればそうでない時もあります。押し付けることのない甘美な音楽は人の心に寄り添うことができます。ほっと静かな音楽に、時には心を躍らせながら耳を傾けていただけたら嬉しいです。                                                                  ご来場、心よりお待ちしております。

つのださん:このホールでもう何度もコンサートをさせていただいていますが、コンサートホールではなく、こういうふうにお客さまとほんとうに近い距離でリュートの響きを聴いてもらえる機会は貴重です。ぜひ歌とリュートの語り合いを聴きにいらしてください。

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大森彩加さん つのだたかしさん の 今後のコンサート情報

大森彩加
11月5日、6日 @シアターX(両国)古楽アンサンブル エクス・ノーヴォ             カヴァリエーリ《魂と肉体の劇》コーロ役
12月1日 @渋谷区文化総合センター4階さくらホール ヴォーカル・コンソート東京          J.Sバッハ アドヴェント・コンサート2022
12月28日 @浦安音楽ホール古楽アンサンブル エクス・ノーヴォ                 モンテヴェルディ《聖母マリアの夕べの祈り》

つのだたかし
◆松明堂音楽ホール開館25周年記念コンサートシリーズ(新所沢)
11月6日(日)孤独の悦び〜MUSIC for ISOLATION *ゲスト出演
11月13日(日)ケーナ 岩川光の世界 *ゲスト出演
11月27日(日)タンゴ・ノスタルジア (完売)

コンサート情報

2022年10月13日   19:00 開演 18:30 開場

もう泣かないで 悲しみの泉よ                      Weep you no more, sad fountains

ソプラノ 大森彩加   リュート つのだたかし

湖のような深さとやわらかさをたたえる声
繊細かつ大胆なリュートの響き
ジョン・ダウランドのリュートソングは涙を芸術に高め、           イタリアバロックの天才クラウディオ・モンテヴェルディは言葉と感情をほとばしる音楽と色彩に変えた
悲しみの泉からひっそりと溢れる美しい歌の数々

 

チケット: 全自由席 前売一般 4500円 /学生1500円(25歳以下)

ご予約はこちらで  https://kioichosalonhall.com/shop/products/detail/30

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本公演はチケットレスとなっております。当日受付にてご購入がわかるメールのプリント、メール受信画面をご提示ください。万が一、確認がとれるものをお忘れの際は、お名前がわかる身分証明書等を当方のリストと照らし合わせをさせていただきます。
身分証明書のご提示がない場合はご入館できない場合もございますので、
お気を付けくださいませ。
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PROGRAM (プログラムは変更になることがあります)
■イギリス・ルネサンスのリュートソング
ジョン・ダウランド (1563-1626)  流れよ わが涙 Flow my tears
シェイクスピア劇の音楽 五尋の深みに 「テンペスト」劇中曲 Full fathom five
トマス・モーリー (1657-1602) 眠れ まどろむ眼 Sleep, slumbʼring eyes
■イタリア・バロックのマドリガーレ
ジューリオ・カッチーニ (1545~51-1618)
星に語った  Sfogava con le stelle
フィッリは星を見上げて Fill, mirando il cielo
クラウディオ・モンテヴェルディ(1567-1643)
アリアンナの嘆き オペラ「アリアンナ」より Lamento dʼArianna
バルバラ・ストロッツィ(1619~1677)
聞きなさい 恋する者たちよ  Udite Amanti ほか

【プロフィール】
大森彩加(ソプラノ)
東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。2019 年、英国王立音楽院声楽科修士課程修了。英国王立音楽院では、ヘンデル「アルチーナ」にモルガーナ役で出演の他、《バッハ・ザ・ヨーロピアン》シリーズで T. ピノック、P. ヘレヴェッヘ氏と共演。帰国後は主に宗教曲のソリスト、アンサンブルの他、古楽や英米歌曲のレパートリーを中心に演奏活動を行なっている。

つのだたかし(リュート)
1976 年ケルン音楽大学リュート科を卒業。ソロに加え、声楽公演の企画・演奏に力を注ぎ、イギリスのリュートソング、イタリアのマドリガーレ作品などのコンサートを国内外で行う。古楽器バンド《タブラトゥーラ》主宰、古楽CD「パルドン」レーベルのプロデュース。舞台・映画・放送の音楽も手がけ、リュート音楽の楽しみを幅広く発信している。

◆協 力・お問合せ:ダウランド アンド カンパニイ