紀尾井町サロンホール主催「木曜コンサート」を、より皆様に楽しんで頂けますよう、ご出演者様へのインタビューを企画致しました。演奏だけではわからない意外な素顔が垣間見えたり、より身近に感じられるようなお話をぜひお楽しみください。Vol.002は日本を代表するテノール、佐野成宏さんです。

日本を代表するテノールとしてご活躍の佐野様ですが、演奏家を志すきっかけにつきまして、教えて頂けますでしょうか?

大学時代に所属しておりました合唱団で世界的指揮者の小林研一郎先生にご指導をいただく幸運がありました。私にテノールパートを一節歌わせた後、先生は指揮棒を置かれ、「君はいま大学でなんの勉強をしているの」と尋ねられ、当時経済大学に通っていた私はその事をお伝えすると先生は即座に「いますぐ大学を辞めて音楽大学で音楽の勉強をしなさい!」と仰いました。経済大学だけは修めたいと思っていたのでその時は漠然とした返事だけしてしまい大学を卒業しましたが、その時の先生の一言がずっと心の底に残っていました。「世界のコバケンが認めてくださった!」この強烈な一言が私の全てを変え、またその後の音楽人生を送る中で大きな自信となりました。

演奏家を志す中で、ご自身の支えとなりました、恩師や周りの方からかけられたお言葉、エピソードなどおありでしょうか?

前述の小林研一郎先生の一言を始め、思えば出会う先生すべての方に貴重なお言葉を頂きました。世界的ソプラノ歌手、故東敦子先生には「音楽は、つまりは品格なの」という一言を、イタリアの名伯楽、故アリーゴポーラ先生には「シニョール・テノールでいること。(紳士たれ)」「歌わずに話しなさい。」「大声を出してはいけない。テノールの声は明るく響かせるように!」など、それらの一言一言は私のあらゆるシーンで大きな示唆を与えてくださいます。

数多くのレパートリーをお持ちかと思いますが、ご自分で大切にされている楽曲、又はお好きな作曲家を教えて頂けますか?

好きな作曲家はジュゼッペ ヴェルディです。ヴェルディの勉強をしたくて私は彼の生まれ故郷であるイタリア・パルマを留学の地に決めました。彼の作品は男の悲哀、悩み、力強さ、そして優しさに溢れています。そしてパルマという土地はその事を習得するのに最高の街でした!コンセルヴァトーリオでの勉強はもちろんですが、街に住む人一人一人があたかもヴェルディのDNAを受け継いているかのように演奏に対して実に正確に鋭く感想を述べてくるのです。生活の中にオペラが根付いている彼らは、例えば演奏会の後楽屋を訪ねてくれて握手とサインを求めながら、今日の演奏であそこでブレスをしなかったのは素晴らしいテクニックだった。どう歌っているんだ?」とか、「今日の高音は素晴らしかったけど、ジーリには一歩及ばなかったな。」とか、実に厳しく恐ろしい、けれど暖かい批評を投げかけてきます。でも自分が良かったと思う事を同じように賞賛してくださるその審美眼はとても自信をつけさせて下さるものでした。

お忙しい日々をお過ごしのことと思いますが、音楽以外でお好きな時間の過ごし方はおありですか?

なかなか自分の自由な時間が取れない事が悩みですが、最近のコロナの影響で外出できない時間を使って書斎のCDをもう一度聴き直したり、楽譜のチェックをしたりという地味な仕事に取り組むことができました。殊にCDはイタリアで購入した年代物の珍しい録音やライブ演奏版がたくさん持って帰ってきているので、それらを聴きながら演奏の凄さにニヤニヤしたりしていました。

今年に入りコロナによって世界が一変してしまい、相次ぐコンサートの中止など音楽家の皆様にとりましても大変な状況となりましたが、その中で思われたことなどございますか?

普段何の不自由もなく練習をし、当たり前のようにピアニストと合わせができてていたことがどんなに貴重なものであったかを思い知らされました。声を出して歌うことさえできない状況に直面して改めて普段からきちんと準備しておく必要性を痛感いたしました。逆に我慢させられる事で音楽表現の欲求は高まり、きっと次のコンサートでは表現する事を愛おしく思い、丁寧な演奏ができるだろうとも思っています。

現在東京音楽大学はじめ、精力的に後進のご指導にも携われていらっしゃいますが、演奏家を目指す方々に伝えたいこと、アドバイスなどおありでしょうか?

まず音楽を心底好きになること。そしてその音楽を作曲家の意図を汲みながら、自分の体験をその音楽に投影しながら表現してあげる事。いくつかのテクニックを磨くことはもちろん大切なことですが、想像膨らませ、豊かな表現をするためにこの作品を心底愛して理解してあげられるかどうかが全てのポイントになると思います。そのためにもいろいろな体験をして色々な事に心を動かして、人間として豊かになってゆく事が実は1番の近道になるのだろうと考えています。

最後に今回のコンサートの見どころなど、楽しみにされていらっしゃるお客様へのメッセージなども合わせてお聞かせいただけますか?

今回のコンサートは、素晴らしい響きの会場で、音楽の本来の喜びである「ライブの響きの美しさと音の波によって伝わる感動」を味わっていただきたく思います。音楽の楽しみはもちろんCD,DVDでも味わうことはできますが、実際に肌で感じる音の振動や強弱、演奏家と結ぶことのできるのコミュニケーションはライブでないと絶対楽しめないことです。残念ながら今回のコンサートではブラヴォーの掛け声は許されないかもしれませんが、生の音の美しさに耳を傾けていただきお楽しみいただければこのような幸せなことはありません。

佐野成宏(さの・しげひろ)
テノール

東京藝術大学声楽科卒業後、アリゴ・ボイト音楽院(伊)に留学。‘92年の関西日伊コンコルソ第1位・ミラノ大賞受賞をはじめ、F・ビニャス国際声楽コンクール3位等多くの国際コンクールで入賞する。‘96年テアトロ・レージョ(パルマ・イタリア)でヴェルディ『レクイエム』のテノールソロとしてデビュー。以降スイス、オーストリア、ドイツ、スペインなどヨーロッパ各地、南米等で数多くのコンサート、オペラに出演する。’01年にはローマ歌劇場でのプッチーニ作曲オペラ『つばめ』(プルニエ役)に、芸術監督である指揮者ジェルメッティ氏の強い希望で出演し高評価を受ける。主演したオペラは、ヴェルディ作曲『椿姫』『ドン・カルロ』『リゴレット』他プッチーニ作曲『ラ・ボエーム』『トスカ』ドニゼッティ作曲『ランメルモールのルチア』ビゼー作曲『カルメン』等があり、いずれも卓越した歌唱と存在感は圧倒的であると同時に、小澤征爾指揮ベルリオーズ『ファウストの劫罰』ファウスト役などで高い音楽性も評価されている。‘09年4月に開催された「天皇皇后両陛下ご成婚50周年ご即位20周年記念祝賀コンサート」に出演。同年6月から出演した佐渡裕指揮 兵庫県立芸術文化センターでの「カルメン」(全7公演)では存在感ある演技と音楽表現で今までにない評価を受ける。14年9月にはヴェルディ作曲「DON CARLOS」フランス語5幕版日本初演にタイトルロール・ドンカルロス役で出演、円熟した歌唱で観客を魅了した。2015年12月には佐渡裕指揮サントリー1万人の第九/兵庫芸術文化センター管弦楽団10周年記念ツア−10公演にテノールソロとして出演。テノ-レ・リリコとして光り輝く声を持ち、オペラの舞台には欠かせない存在感のあるプリモとして活躍するテノール歌手である。駒ヶ根高原音楽祭(長野県・駒ヶ根市)主宰。現在東京音楽大学客員教授。

コンサート情報

アーク紀尾井町サロンホール主催シリーズ 木曜コンサート
Shigehiro Sano Salon Concert
佐野成宏サロンコンサート~イタリアの愛・日本の心~」

出演 佐野成宏 Tenor / 篠宮久徳 Piano

2020年10月22日(木) 開場13:15 開演14:00

チケット ¥5,500(税込・全自由席)
*新型コロナウィルス感染拡大防止対策のためお席には限りがございます
*マスクをご着用いただけないお客様は入場をお断り申し上げます

チケットお問い合わせ
03-6680-6715 株式会社オペラ王国社
WEBサイトはこちら

主催/アーク証券株式会社・紀尾井町サロンホール運営事務局
協力/株式会社オペラ王国社