紀尾井町サロンホール主催「木曜コンサート」をより皆様に楽しんでいただくための、インタビューシリーズ。演奏だけではわからない意外な素顔が垣間見えたり、より身近に感じられるようなお話をぜひお楽しみください。Vol.009は5月13日の木曜コンサートにご出演いただく太田糸音さんにご登場いただきました。

ピアノをはじめられたきっかけについて、お聞かせ頂けますか?

3歳の時に音楽教室に通い始め、5歳からピアノと作曲を習い始めました。両親がジャズ・ポップスの音楽家だったので、生まれる前から音楽に包まれた環境で育ちました。

太田様は東京音楽大学付属高校を飛び級で大学に進学、大学も3年間で卒業されたと伺っております。音楽と学業の両立だけでも大変かと思いますが、普通は7年かかるところを5年間で駆け抜けられた中、一番ご苦労をされたこと、乗り越える力になったことを教えて頂けますか?

大学卒業後に海外へ留学したいと思っており、友人が支えてくれてとても励みになりました。高校入学時に目標としていた大学への飛び級が決まった頃から、大学の早期卒業を考えていました。

高校は時間割がほぼ決まっているので、授業を受けて試験に挑むことを大変と感じませんでしたが、大学では自由な枠になるので、卒業に必要な条件の把握漏れ・解釈違いがないかを高校生の時より意識して確認していました。特に大学の卒業必須単位数を通常の4年間ではなく3年間で履修することは想像以上に慌ただしく、平日は毎日大学で授業を受けて授業の間に図書館で必要な資料や楽譜を揃えて…を繰り返していました。

ハードでしたが、受講できてよかった授業も多く、今だけでなく今後に繋がっているように思います。そして卒業後に名古屋芸術大学院へ進学し、勉強したかった分野にも深く触れることができ、尊敬する先生のもとで日々沢山の事を吸収しています。

演奏家を志す過程で、ご自身の支えとなった恩師や応援してくださる方々からのお言葉、印象深い出来事などございますか?

ピアニストってかっこいい!と幼心で感じたのは、ラン・ラン氏の公開レッスンを受講した時でした。

 Youtube ピティナ ピアノチャンネル PTNAより

音がまるで生き物のように踊っている、微笑んでいる、私も思わずわくわくしちゃう…ピアノってこんなに面白いんだ、と思ったのはこれが初めてでした。小学生の頃は作曲家になりたいと思っていましたが弾くことの魅力を感じ、今振り返っても、キラキラした音が私の中に残っています。ラン・ラン氏は私にとって永遠のヒーローです。

聴いてくださるお客様や普段からよく知っている方からいただくお言葉や反応は、私の大事な財産で、興味深いものも多いです。

そしてやはり、ご指導いただいている横山幸雄先生の存在はとても大きいです。数年前にコンクールで初めてお話しした事をきっかけに、これまで幾度と私の心を守ってくださいました。初めて先生からいただいたメールは何度も読み返しています。書かれていた大切な内容は私の中での秘密とさせていただきますが(笑)、若輩者としての遠慮は無用、何かあったらどれだけ小さなことでも相談に乗るよ、と仰ってくださっていました。

これから先、演奏家としてもしくはプライベートでチャレンジされたい事などおありですか?

ソロ演奏に留まらず、室内楽作品も多く取り組みたいです。また、ドイツ語を勉強しているので、ゲーテやヘッセ、ハイネらの詩を原語で読めるようになりたいです。あとフィギュアスケートの大会を観に行きたいです。…と、これは願望ですね(笑)

今年はベルリン芸術大学ソリストマスター課程への留学が決まられているとのこと、新しい地での生活では、どんなことを楽しみにされていらっしゃぃますか?

情勢の影響でそれまで考えていた留学の案が一度白紙になったことから、新たに志したベルリンでの留学生活が決まったことにとても安心しました。

昨年の春頃、演奏会が次々に中止・延期となり、予定より自分と向き合う時間が増えた中で好きなドイツリートを沢山聴いていました。ドイツ語の響き好きだな、この歌曲の真髄を追究したいな、ドイツ音楽ってやっぱり至福だな…と思い始めた頃から、私自身もドイツに行きたいと思い始めました。

永遠に向き合っていかなければならない問題を抱え、その中でどう生きていくか、何を変えていけるのか、そして何を守ってゆくか…ドイツは、倫理をとても大切にしている国です。バロックから現代音楽までありとあらゆる作品に長けている先生のもとで、ヨーロッパの文化を吸収できることをとても楽しみにしています。

最後に今回のコンサートで予定されている楽曲について、又、心待ちにされていらっしゃるお客様へメッセージをお願いいたします。

「幻想への誘い」と称し、私自身が夜に聴きたいと思う作品の中から選びました。ベートーヴェンのピアノソナタ第13番「幻想曲風ソナタ」と第14番「月光」作品27、対を成すこの2曲で演奏会の幕が開けます。どちらもベートーヴェン自身による幻想曲風ソナタの題が付き、それまでのピアノソナタの伝統的な型を破り自由な構想となっています。ドビュッシーの映像第2集は光と陰の微妙な揺らめきが精妙に描かれていて、目に視える・視えないものの幻想が融和した神秘的な世界へ誘うことでしょう。

後半はスクリャービンの左手のための前奏曲、そしてシューマンのピアノソナタ第1番を演奏します。左手だけによる作品を演奏するのは今回が初めてですが、この前奏曲の心寄り添うあたたかさ、多彩な世界にずっと惹かれていました。シューマンのピアノソナタ第1番は文学と音楽が融合した大きな物語。より深くへ、沈み込むような世界の大きさを感じます。何より、後に妻となるクララがいなくてはこの作品は誕生していません。そして、先生から強く勧めていただいたこの作品を演奏できるのが凄く楽しみです。

全て初めて演奏する曲によるプログラムで、私にとっては新しい挑戦です。不安な情勢下ではありますが、無限に広がる幻想的な夜の世界をお届けいたします。

コンサート情報

アーク紀尾井町サロンホール主催シリーズ 木曜コンサート
太田糸音ピアノコンサート ―幻想への誘い―

2021年5月13日 木曜日 開場18:30 開演19:00

料金 一般¥2,000 学生¥1,500 税込・全席自由
ご予約 紀尾井町サロンホールオンライン予約 https://forms.gle/v2X6BwXEMtyZtAKn9
*当日会場での現金精算となります

ベートーヴェン / ピアノソナタ第13番変ホ長調「幻想曲風ソナタ」 Op.27-1
ベートーヴェン / 第14番嬰ハ短調「月光」 Op.27-2
ドビュッシー / 映像第2集
スクリャービン / 左手のための前奏曲 Op.9-1
シューマン / ピアノソナタ第1番嬰ヘ短調 Op.11

太田糸音 - Shion Ota
2000年生まれ。東京音楽大学を飛び入学後、20歳(3年次)にて早期卒業。現在名古屋芸術大学大学院音楽研究科に在学し、横山幸雄氏に師事。また、ベルリン芸術大学ソリストマスター課程へ留学予定。全日本学生音楽コンクール中学校の部全国大会第1位、浜松国際ピアノアカデミーコンクール第5位及びモスト・ プロミシング・アーティスト賞、松方ホール音楽賞第1位、マルタ国際ピアノコンクール第2位など多数入賞。国内外でのソロ・室内楽での演奏、オーケストラとの共演を果たす。Warner Music Japanより配信限定アルバムをリリース。2018年度CHANEL Pygmalion Days参加アーティスト。

お問合せ先 紀尾井町サロンホール https://kioichosalonhall.com/
主催 アーク証券株式会社 ・ 紀尾井町サロンホール運営事務局

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